『新建築住宅特集 2011年5月号』  那須の家

 

 

周辺環境に素直である事

 

計画地は那須の御用邸に近い、視界のひらけた小高い丘の上にある。

北から南へ下る高低差3m ほどのこの場所からは、南西側から北東側にかけて那須の樹海や八溝山麓を望むことが出来る。

先に“視界のひらけた”と記したのは、このあたりは雑木林を拓いた別荘地の景観とは異なり、丘陵地ならではの地形が遠くまで

見渡せるような場所であるためだ。そこを流れる風やふりそそぐ光は、高い木立ちや周辺の家屋に邪魔されることはない。

それらをより素直に受け入れる仕組みが必要である。この地をはじめて訪れた時、そう直感した。 プランを構成する

アイディアは至ってシンプルだ。まずはそれぞれの空間が対峙すべき方向を見定めて、それに従った。

日中の活動が主になるリビングやダイニングなどのパブリックな空間は南に、目覚めた時に朝の太陽を浴びるように

寝室や客室などは東に、といった具合だ。ゲストハウスとしての役割も考慮しつつ、パブリックな空間は1 階とし、

プライベートな空間は2 階となるようにグルーピングを行ない、積み重なるように立体的な十字型に配置した。

そうすることで内部空間のどこからも外部への視界を確保する構成が可能になる。 また、周辺のどちらの方向から見ても

“視線のぬけ”が生じ、ピロティーやルーフを介して山や林や空の風景が映り、それらとより近い関係になっていく。

このような幾つかの操作によって、建築の内外に天気や時間で常に変化する光斑(ヒカリムラ)や熱斑(ネツムラ)を発生させ、

空間に表情のある心地よさをつくりだそうと試みている。内部空間は十字型プランの交点に吹抜けを持った立体的なひとつながりの

居住空間とした。日常の生活における見渡せる安心感と、休暇時のアクティビティーを抱え込む寛容さを求めた。

冬季の外気温や湿度を遮断するという絶対的な条件に答えつつ、そこここに景色を切り取り、光を招き入れる大小の開口を配置して、

外部空間との関係を保っている。

 

 

快適性の強化 床暖房から“カベ暖房”、“カグ暖房”へ

 

冬季の外気温が-10℃を下回る地域のため、全館に渡って24時間運転する電気式ヒートポンプを利用した蓄熱床暖房システムを

構築している。深夜電力の利用はランニングコスト上のメリットがあるが、決められた時間に集中して加熱し長い時間放熱する

方法の場合は、きめ細かい温度調整が不得意になる。1階の床面には、熱をより効率的に維持するため、厚さ380mmの蓄熱体

(石+RC+砂利)を配置し、方々からの日射によるダイレクトゲインを補助的に利用して随時微熱を補っている。

また、暖かさが体や手の触れる場所に集まる様に、配置される温水管の密度を部位ごとに変化させ、室内に露出する躯体壁や

鉄骨階段、手摺金物等に熱を伝えていく。更にキッチンや洗面カウンターにおいては、家具内を上昇する暖気のルートをコン

トロールして天板や足元に体感的な暖かさをフォローしている。単体としての“ユカ暖房”システムを、

“カベ暖房”“カグ暖房”に発展させることで、心地よさを強化している。